人の操縦する飛行機の飛行性の改善に関する研究
―昇降舵操縦系統の剛性低下方式―

堀越二郎

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要約

 本論文は、主に副題で示されるように、人の操縦する飛行機の飛行性の改善を提案する原理の理論的分析により構成される。外面的には単純であるが、その原理は飛行力学ならびに固体力学に基づき、テスト飛行並びに伝統的な日本的哲学に基づく技巧と技術に従った豊富な飛行経験による肯定的な証拠に裏打ちされている。
 著者は、航空機の安定性と操縦性をパイロットの物理的、知覚的特性に整合させるためには依然として大きな改善の余地があり、人が操縦する飛行機の理想的な飛行性を得るためには改善が必須であると考える。著者は、飛行性の特性の中でも縦方向の細かい操縦及び縦方向の反応が最も重要であり、かつ繊細であることを学んだ。本論文は、昇降舵操縦系統の剛性の十分な低下、すなわち適正な調整による優れた整合性を示すことを意図している。昇降舵操従系統は、航空機の反応対速度、すなわち飛行機の速度に対して操縦桿の飛行機の反応量に対する移動量が上方にシフトし平坦化する曲線を描かねばならず急旋回における巧みな操縦から微妙な修正制御まで速度増加に伴い操縦桿の移動量に対する制御系の伸張が自動的に増大する、自動的に無限に可変するリンクのように作用しなければならない。
 著者は、航空機の設計者(特に戦闘機、曲技飛行機、訓練範疇の設計者)へ、彼らの設計に飛行機の速度変化に応じた操縦桿移動量の変化を最小化させる原理を取り入れること、更に政府機関に航空機耐空性要件の勧告条項として本研究内容を規定させるよう助言を考えていた。更に、政府機関に航空機耐空性要件の中で制御系の剛性が規定値以下とならないことを要求する基準を撤回するように提案をした。
 著者の概念を提案してから約四半世紀経過したが、今日では制御の感覚問題の要素としての反応当たりの操縦桿の移動量は、学生や航空学では一般的な議論の対象となっている。しかしながら、これを実現する単純で効果的な手段は著者の知る限りでは他の研究者からは未だ提案されていない。
 本論文では、縦方向に安定して巧みに操縦できる広範囲な速度の範囲にわたり重力加速度あたりの操縦桿移動量に対する昇降舵制御系の剛性を低下させた効果、操舵力あたりの操縦桿移動量等々に対して、更に操舵力の周波数応答に関する上述の効果、時間に関した正弦波運動に対する迎え角及びピッチ角、定常飛行での操縦桿に対して分析的な調査研究がなされている。縦方向制御の初期あるいは過渡状態における上述の反応の効果に対するアナログコンピューター分析を含む数値計算は、筆者が責任者として実際の寸法、重量及び空気力学的データに基づいた試作飛行機を用いた風洞試験により実施された。本論文には、着想の進展及び上述の試作機の飛行試験が詳解されている。分析的調査研究の結果は飛行試験の内容と顕著に一致しており、著者の目的は飛行試験に従い剛性を選択し、剛性を調整することにより効率的に成功を収めたことが示されている。問題の本質並びに上述の調査研究により本研究の概念が通常設計される亜音速の飛行機に対して適用可能であり、通常の加速度が存在する広範囲な速度域において高い反応特性が要求される飛行機に対して非常に有効的であることが示唆されている。
 昇降舵制御系の剛性低下は、他方では多かれ少なかれ飛行機の特性に反対の効果をもたらすかもしれない。昇降舵の不規則な動き、操縦桿の素早い操作によって引き起こされた昇降系のフラッターの減衰特性の悪化、上述の飛行機の短時間の発振による振動との連成の可能性のような影響に対して調査研究が実施された。通常の設計による飛行機では、剛性低下による悪影響は実際的には発生しなかったことが確認された。より速度が速く重量がある飛行機の事例に対して上述の問題に対する簡略的な考察によれば提案した原理をこれらの飛行機に適用することによる深刻な悪影響は、空気力学的な圧縮性による効果を考慮しない限りはもはや起きないであろうと推論することが可能である。
 重力加速度あたりの操縦桿に加わる力は、人の操縦する何等特別な装備を備えない飛行機に対しては速度に関わらず理論的には一定であることから、昇降舵制御系の剛性が適正に選ばれたのであれば、二つの量すなわち操縦桿に加わる力と操縦桿の移動量は、急旋回での巧みな操縦から微妙な修正制御まで縦方向の制御の強度の適切な測定基準となる。著者が思い描く適正な剛性を見つける一般的な手順が本論文に示されている。
 本論文では、「完全に油圧駆動される飛行機」は、油圧駆動系が一般的に現在使用されている機構よりもよりよく反応するメカニズムでない限りは「人が操縦する飛行機」から除外されなければならない。
 要約を締めくくるにあたり、著者はこの原理が航空力学的工学技術、更に機械的な分野のいくつかの問題に対して、自己適応性を提供することで、そして(あるいは)反応をやわらげることを要求することで、更にある程度までの部材の弾性的変形を許すことで、適正な解決法を提供できるであろうことを述べたい。スプリングタブは、更に著者の知る限りでは、飛行機への成功した応用の第二の例として引用できるであろう。本論文では操作力の変化に従い自動的にタブ比を調整するためにバランスタブと主操作表面を接続する部材の柔軟性が巧妙に利用されていることを示している。

(原文は英文)